前回、コロナ禍におけるチームビルディングの話をする前に、そもそもの社会変化について解説した。事業の構造改革が必要で、そのためには実行する組織の構造改革が求められる。実行力は、実行スピードと実行回数の掛け算だ。
「コロナ禍は関係ない」チームという組織の構造改革の必要性--昔の真実は、今のウソ(2021年6月22日掲載)
しかし、多くの企業が口をそろえて言う。「それはわかっているが、時間がない、人がいない」。リソース不足を嘆くのだが、果たしてそれは真実だろうか。筆者は、それはウソだと考えている。今回は、実行力を上げるためのチームの作り方について解説したい。
結論からいうと「できない」「時間がいない」は固定観念でしかない。
実行できる人がいない場合、多くの企業はまず採用を思いつく。もちろん採用という手段を否定するつもりはないが、「採用は難しいよね。なかなか良い人がいないから」というフレーズがほぼ必ずと言っていいほどついてくる。なぜそうなるのか。
いまだに多くの企業は採用にあたって、違和感なく制約を設けている。求める経験やスキルを保有していることは必要要件だとしても、その上で、
……このような人を探す。だが、これはハッキリ言って、それは奇跡の出会いだ。
当然「採用は本当に難しいよね。なかなか良い人がいないからなぁ」になり、思い通りに採用ができないから「人材難だ」と言い、「採用ができるまではやりたいことができません!」がまかり通ってしまう。多くの採用担当者はもちろん、経営者も違和感なく人材難を現代の常識と思い込んでいる節があるため、事業の成長が遠ざかっているのに「人がいないから仕方ない」を許容しがちとなる。時代の変化を本当の意味では理解していないか、理解しているが自身の成功体験に無いから受け入れていないか。どちらにせよ、手段に視点がいき、目的が見失われている。
とはいえ、たしかに労働人口とされる15歳以上65歳未満は減少傾向だ。8500万人ほどいた90年代頃をピークに右肩下がりで、現在はピークから1000万人程度減っている。2060年頃にはピーク時の半数になるという調査データもある。
しかしこれが、思考停止をしてもまかり通る都合の良い言い訳材料になっていないだろうか。筆者は、いろんな要素から、そこには固定観念があると考えている。なかでも、医療とテクノロジーのそれぞれの進歩という2つの観点だ。
ひとつは、労働力調査の年齢の区切り方。いまだに15歳以上65歳未満を物差しとしている。医療の進歩等により、65歳以上もこれからももっと活躍できる世代。誰もが知る存在として、明石家さんまさんや桑田佳祐さんも65歳だが、既存の労働力調査によると彼らは引退者になってしまう。滑稽な話だ。
余談だが、「サザエさん」に登場する波平さん(磯野波平)は54歳という設定なのをご存知だろうか。時代の変化を無視して、その感覚のまま、多くの人が世の中をみているように感じてしまう。さらにどうでもいい話をすると、42歳の筆者は”おっさん扱い”の対象になりがち。若手とは言わないが、人生100年時代においてはまだ折り返し地点にもたどり着いていない。
人材難の基準は、あくまで旧時代の物差しで「年齢」を区切りに社会をとらえているからではないだろうか。年齢ではなく、活躍できるかどうかを基準とすれば、統計調査よりももっと労働人口は多いはずだ。
そして、もうひとつは、テクノロジーの進化である。
前述した”奇跡の条件”でも、採用確率は0%ではない。いい人と巡り合えることもあるが、確率論的には決して高いとは言えないだろう。ではどうすれば確率を上げられるか。年齢ではなく活躍できるかどうかの視点を持つこと加えて、本当は不要な条件を取り除くだけでいい。
奇跡の条件から、時間と場所、契約形態など働き方に関する不要条件を取り除くだけで、適材と出会う確率は飛躍的に上昇する。
目的は事業を成長させることであり、その手段として人が欠かせないだけ。その人が、東京にいようが、離島にいようが、海外にいようが、本当は関係ない。その人の稼働が、9~18時ではなく、6~12時だろうが、11~15時と17~22時の組み合わせだろうが、22時以降であっても関係はない。正社員じゃなきゃいけない理由も、例外を除き、何かあるだろうか。
少し話がそれるが、ECをイメージしてほしい。例えば、地場の商圏だけで商売をしていた地方企業があるとする。地域の人口減少に伴い、売上に伸び悩んでいた。このままでは廃業に追い込まれてしまうが、自らの手で地域の人口を増やすことは不可能に近い。そこでECサイトだ。インターネットを活用することで、商圏は日本全国、場合により地球全体に広がる。地域の人口は減っているが、顧客見込みのターゲットはむしろ劇的に増えるのだ。
仮にその地域には1万人いて、そのうち1%が見込み客だったとしよう。見込みは100人だ。地域の人口が半減したら50人。売上も半分だ。ところがインターネットで日本中をターゲットにすると1%でも130万人。テクノロジーの活用によって、商圏は1万3000倍になる。
地域企業として、どうしても地域だけで商売をし続ける強い理由でもない限り、テクノロジーの活用は飛躍的に可能性を広げる。人材探しもまったく同じだ。
多くの職種において、もはやインターネットさえあれば仕事ができる時代である。時間と場所、それから契約形態という、目的達成に絶対必要とは言い難い条件を無くせばいい。出社不要、稼働時間自由、パラレルワーク大歓迎。それだけで、求める人材ターゲットは劇的に増加する。出会いは奇跡ではなく、すぐ出会えることになる。
ここまで説明したことの理屈は分かるが、本当に実現可能なのかという疑問もあるかと思う。筆者が所属するランサーズについて紹介したい。
ランサーズの従業員は、わずか175名(2021年3月時点)だが、事業運営は3500名以上で行っている。2800名以上がフリーランスで、働く時間も働く場所も自由で、フリーランスだから契約形態の縛りもない。本当は不要な条件を除外するだけで、自社の20倍以上の人員体制を構築できている。
事業の推進力を上げるには、テクノロジーを活用した効率化を図りながらも、やはり人の存在は欠かせない。人口は国力だ、なんて古い言葉もあるが、あながち間違いではないと思う。
ちなみに、日本には企業が420万社あるが、そのうち3500名以上の体制を整えているのは、わずか0.005%の220社程度しか存在してないとされている。雇用という括りでは違うが、事業を実行するチームという見方をすると、ランサーズもそこに該当する。
言いたいことは、小さな会社でも、地方の会社でも、事業を推進する稼働人員数は、奇跡の条件さえなくせば、大手企業と肩を並べる実行力を得られるということだ。
ただ、人員体制が強化・拡大されると、次はマネージメントの問題にぶち当たる。しかもオンラインでのマネージメントとなるだけでなく、時間も場所も契約も様々。画一的ではなく多様な組織では、いままでとは違う視点も必要だ。次回は、オンラインで多様な組織・チームをどうやってマネージしていくのか。それについては解説したい。
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